シチリアン・ディフェンスとは、1.e4 c5 で始まる黒が横のポーンで中央にぶつかる、いちばん人気の受けです。1...e5と正面から受けるのではなく、c5と横から中央をねらうのがシチリアンです。形が左右で食い違うので、引き分けになりにくく、黒でも勝ちにいける戦いになります。そのぶん覚える形が多く、初心者にはいちばん手ごわい定跡でもあります。
この記事でわかること
- シチリアン・ディフェンスの意味と、
1...c5にこめた狙い 1...e5との違い(なぜ黒が勝ちにいけるのか)- 代表的な分岐(オープン・シチリアン/ナイドルフ/ドラゴンなど)
- 白の狙い・黒の狙いと、フィッシャーとカスパロフの名局2つ
1.e4 c5 まで進んだ局面。この形が出発点です。
c5って、中央のポーンを取り合わないのにゃ?なんだか遠回りに見えるにゃ。c5は白がd4と突いてきたときに交換できる位置にある。つまり「白の中央を1枚減らす係」なんだよ。真正面で受けるかわりに、横から削るという考え方だね。シチリアン・ディフェンスとは?意味と狙いを一言で
ねらいは「形をずらして勝ちにいく」。 シチリアンの狙いは、白のd4をcxd4で削り、中央のポーンの数を白1枚・黒2枚にすることです。そのうえで、白はキング側を攻め、黒はcの縦の道からクイーン側を攻める、というかみ合わない戦いに持ち込みます。おたがい別の場所を攻めるので、勝ち負けがはっきりつきやすいのが特徴です。
1.e4に対する受けの中でいちばん多く指されています。理由は「黒が勝ちにいける」という性質にあります。ただしそのぶん研究の量も最大級です。だから初心者は、まずナイドルフかドラゴンなどを1つだけ選んで繰り返すのが賢い進め方です。歴史と名前の由来:イタリア・シチリア島にちなむ呼び名から
呼び名は、17世紀シチリア島出身の聖職者ピエトロ・カレーラが著書でこの受けに触れたことに由来するとされます。「シチリアン・ディフェンス」という英語の呼び方は、19世紀初めのイギリスの棋士サラットが用いて定着したと伝えられます。長らく「変わった受け」と見られていましたが、20世紀に入って評価が一変しました。中央を早く決めず、あとから戦いを作る現代的な考え方に合っていたからです。ボビー・フィッシャーやガルリ・カスパロフといった世界王者が主力武器にしたことで、シチリアンは1.e4への最有力の受けとして定着しました。
c5は理解されにくかったんだ。でも「あとから中央を争ってもいい」という考えが広まると、一気に主役になった。チェスの歴史は、こういう見方の逆転がたくさんあるんだ。手順と分岐点:代表的な枝分かれ
基本の手順は 1.e4 c5。 ここから先、下のような分かれ道があります。
| 分岐の名前 | 手順 | どんな狙い? |
|---|---|---|
| オープン・シチリアン | 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 | 白が中央を開いてナイトで取り返す本線。もっとも激しく、研究も最大級です。 |
| ナイドルフ | 4...Nf6 5.Nc3 a6 | オープン・シチリアンでいちばん有名な枝。a6で相手の駒の侵入を防ぎ、柔軟に構えます。 |
| ドラゴン | 4...Nf6 5.Nc3 g6 | ビショップをg7に置き、長い斜めの道から反撃する形。おたがい猛攻し合う激しい枝です。 |
| スヴェシニコフ | 2.Nf3 Nc6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 e5 | 黒が早くe5と突いて主導権をねらう現代的な形。トップでも人気があります。 |
| アンチシチリアン | 2.c3/2.Nc3/3.Bb5 | 白が本線を避けて、覚える量を減らす道。アラピンやクローズドなどが代表です。 |
黒がcポーンで白のd4を削り、白がナイトで取り返した局面です。白は中央にナイトが立ち、駒を出す速さでは一歩リード。黒は中央のポーンが1枚多く、cの縦の道が開いて将来の反撃の道になっています。ここから黒はa6やg6を選び、有名な分岐に入っていきます。
白の戦略・黒の戦略:おたがい何がしたい?
作戦の”やりたいこと”が分かると、指し手に迷いません。
- 白のねらい
- 中央にナイトを立て、駒を出す速さで先に攻めの形を作る。
- キング側にポーンや駒を集め、黒のキング前を崩しにいく。
- 黒のcの縦の道からの反撃を、あらかじめ受ける準備をしておく。
- 黒のねらい
- cポーンを交換して、白の中央ポーンを減らす。
- 開いたcの縦の道にルークを置き、白のクイーン側をねらう。
- 白の攻めが速いので、守りの形(
e6やg6など)を先に決めておく。
白が勝った名局:フィッシャー vs ラーセン(1958年 ポルトロシュ インターゾーナル 第8戦)
白がシチリアンを攻めきった名局として、当時15歳のボビー・フィッシャーがベント・ラーセンを破った一局が知られています。黒のドラゴン変化に対し、白が一直線の攻めで押し切りました。
黒はドラゴン変化を選び、ビショップを g7 に置いて長い斜めの道から反撃をねらいます。白黒が反対側にキングを囲ったため、おたがい相手のキングめがけてポーンを突進させる殴り合いになりました。フィッシャーは h のポーンを h5 まで進め、22.Rxh5 とルークを捨てて黒キングの周りの壁を壊します。続く 23.g6 で決定的になり、白が押し切りました。フィッシャーはこの攻め方を「捨てて、捨てて、メイト」という短い言葉で表したと伝えられています。
Fischer vs Larsen(1958年 ポルトロシュ・インターゾーナル)
※実際の棋譜(全61手)です。「次へ ▶」で1手ずつ進みます。
▶ この形をChess.comで試す(無料)黒が勝った名局:カルポフ vs カスパロフ(1985年 世界選手権 第16局)
黒がシチリアンで勝った名局として名高いのが、1985年モスクワの世界選手権・第16局です。黒番のガルリ・カスパロフが、ナイトを一枚敵陣に居座らせてアナトリー・カルポフを打ち破りました。
カスパロフは序盤でポーンを1枚差し出し、そのかわりに 16…Nd3 と白陣のど真ん中にナイトを固定しました。このナイトは追い出すことができず、f5 のビショップと組んで白のルーク2枚とクイーンをまるごと動けなくしてしまいます。白はついにクイーンを捨ててこのナイトを取り除くしかなくなり、そこで勝負がつきました。あまりに動かないので「たこのナイト」と呼ばれ、チェス史上のベストゲームに選ばれたこともある一局です。
Karpov vs Kasparov(1985年 世界選手権 第16局)
※実際の棋譜(全80手)です。「次へ ▶」で1手ずつ進みます。
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- シチリアンは
c5で横から中央をねらう、いちばん人気の受け。 - 形がずれるので引き分けになりにくく、黒でも勝ちにいける。
- 覚える量が多いので、まず1つの分岐だけ選んで繰り返すのがコツ。
よくある質問(FAQ)
シチリアンは初心者でも使えますか?
1...e5とどちらを覚えるべきですか?
1...e5のほうが素直です。黒でも積極的に勝ちにいきたい、複雑な形が好き、という人はシチリアンが向いています。どちらか1つで十分です。白がアラピン(2.c3)などを指してきたら?
次の一歩
- ほかの作戦も見てみる → チェスのオープニング一覧【主要55種類】
- 手筋の基礎を固める → チェスの基本戦術まとめ【保存版】
- フォークを覚える → チェスのフォークとは?
シチリアンは奥が深いですが、入口は1...c5のたった1手です。まず分岐を1つ決めて、次の対局で同じ形を繰り返し試してみてください。
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